Gの夢 -- Mathematical Part
★ Aと咲の数学夜話 ・ 第4回:三次方程式 ★
2009/09/01  
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こっ、こんにちわ。今回初登場の、咲です。
はじめまして、皆さん、Aです。

「あのね、A、私、友達から3次方程式の解き方っていうのを教わったんだ。」
「咲、それは良い友を持ったね。」
「でもね、後から考えみると、よくわからないの。
 3次方程式って、ちゃんと書くと、
  A X^3 + B X^2 + C X + D = 0
 でしょう。
 でも、これだとたいへんだから、簡単にして
  x^3 + a x + b = 0
 から始めましょうってことをするの。
 でもね、上と下とはかなり違ってると思うの。」
「そうだね。慣れた人には説明不要ないのかもしれないけれど、
 初めて見た人にとっては、すっぽかされた気になるよね。」
「こんなの簡単だから、普通、誰でもわかるのかな?」
「そんなことはない。
 今では簡単にできることでも、最初に考えた人は大変な苦労をしたんだ。
 この上から下のように式を簡単にする方法には、“チルンハウゼン変換”という名前が付いている。
 まず最初の式を全部 A で割ると、x^3 の係数を1にできる、ということは解るよね。」

  A X^3 + B X^2 + C X + D = 0
    ↓ Aで割る
  X^3 + (B/A) X^2 + (C/A) X + (D/A) = 0
「ええ、そこまでは解るの。なので
  X^3 + P X^2 + Q X + R = 0
 から始めても、それほど違和感ないわ。」
「次は、X = (x - P/3) に置き換えてみると、
  X^3 + P X^2 + Q X + R
    ↓ 置き換え
= (x - P/3)^3 + P (x - P/3)^2 + Q (x - P/3) + R
= x^3 - P x^2 + (P^2/3) x - P^3/27 + P x^2 - (2 P^2/3) x + P^3/9 + Q x - Q P/3 + R
= x^3 + {(P^2/3) - (2 P^2/3) + Q} x + {- P^3/27 + P^3/9 + Q x - Q P/3 + R}
= x^3 + { - P^2/3 + Q } x + { 2 P^3/27 - Q P/3 + R}
 となって、うまい具合に x^2 の項が消えてしまう。」
「そうやって式に書けばウソじゃない、ってことはわかるんだけど、、、
 でも、どうやって最初に X = (x - P/3) なんて思い付いたのかしら。」
「そうだね、もっと簡単にして、二次式のグラフを描いてみようか。」
Aは y=x^2 と、y=ax のグラフを重ねて描いた。
「y = x^2 + ax というグラフは、この2つを足し合わせたものだよね。」
「そうね。」
「2つ合わせると、こんな風に、放物線の軸が原点からずれる。
 a は、放物線の原点での傾きだ。」
「放物線が、直線の上を滑り落ちたみたいだね。」
「うまい言い方だね。
 そうやって滑り落ちてきた放物線がここにくるから、
 図を見ると、放物線に合わせて、ここに新しい座標を置きたくなるじゃないか。」
「それが x を置き換えるってことなの?」
「その通り。
 今の場合、ここの長さが a/2 になっているから、ちょうど x の位置を a/2 だけ横にずらせばぴったりになる。
 それを式に書くと X = (x - a/2) になるんだ。」
「ふーん、絵に書くと、イメージ湧くね。」
「なので X = (x - a/2) という置き換えで、うまく1次の項 a x を消すことができる。
 二次方程式だったら、これだけで答がわかるんだ。」
「それが解の公式ってことなんだね。」
「ああ。a が原点での傾きだということから、a/2 っていう数が微分に関係しているんじゃないかという勘が働く。
 ためしに (x^2 + a x) を微分すると、2 x + a だ。
 放物線の底ではこれが0になるから、x = a/2 ってことがわかる。」
「微分なのかぁ。」
「そう、二次式だったら a/2、三次式だったら a/3、四次式だったら a/4、、、このルールは微分とそっくりだ。
 いま二次式で考えたことを、三次式でもやってみよう。
 y = x^3 と、y = a x^2 という2つのグラフを重ね合わせてみる。」
「あ、今度は傾きじゃなくて、カーブがぴったり合っているって感じだね。」
「そう、いかにも次元が1つ上がったって感じだろう。
 この2つを合わせた y = x^3 + a x^2 のグラフは、原点から少し外れたところに変曲点を持っている。
 いかにもここが“真ん中”といった感じだ。」
「だから、その“真ん中”に座標を合わせたくなるのね。」
「そうだ。座標を合わせるには、X を (x - a/3) に置き換えればいい。
 今度も x^3 + a x^2 を微分してみると、3 x^2 + 2 a x 、
 さらにもう一回微分すると、6 x + 2 a 、ここから a/3 が出てくる。」
「そっかあー。きっと最初に考えた人も、こうやってグラフを書いてみたんだね。」
「恐らく何らかの幾何学的イメージは持ち合わせていたと思う。
 もっとも時代からして、今みたいにスマートに微分していたとは思えないけどね。」

「そういえば、三次方程式のときには、立方体をイメージして解き方を考えた。」
「その立方体のイメージは、歴史的な文献にも残っている。
 昔は、現代のような記号で書く代数が発達していなくて、幾何学的な図形と言葉で考えていたんだ。
 記号代数は人類の偉大なる進歩だけど、後から学ぶ者にとっては、昔ながらの図形イメージが助けになると思う。
 ・・・そうだ、まずは三次方程式の形を見てみようか。」
「三次方程式の形って、三次曲線のこと?」
「その三次曲線を、複素数の範囲まで広げて見たら?」
「複素数?」
「ああ。例えば y = x^3 の、実数上のグラフはこんな感じだろう。」
Aはクニャっと曲がったS字型のグラフを描いた。
「それと、x^3 = 1 という方程式の答は、いくつになるかわかるかな?」
「あ、それ聞いたことがある。1と、ωっていう数と、ω^2 の3つ。」
「よく知っているじゃないか。
 その3つの答を複素平面上に描くと、ちょうど正三角形の頂点の位置に来る。
 それでは、この2つの図、S字型のグラフと、正三角形を組み合わせるとどうなるかな?」
「組み合わせって・・・、つまり、複素数上で三次曲線を描いてみるってこと?」
「そう。ただし1枚の絵に収めるために、(実数y) = (複素数x)^3 という関数にするけどね。」
Aは3次元のグラフを描いて見せた。
実数のx軸、虚数のi軸、そして実数のy軸の3本。
「 y = x^3 + 1 のグラフは、まず実数のところは、このS字型のカーブになる。」
「うん。」
「虚数の範囲で、今、わかっているのは、正三角形の、ここと、ここの3点だ。」
「そっか、実数の他に、あと2本の線があるんだね。」
「その2本の線が、どんな風に延びているか、想像できるかな?」
「えーと、えーと・・・たぶん双子みたいに、そっくり同じ形をしていると思う。」
「良い予想だ。実は双子どころか、三つ子になっているんだ。」
Aは、あと2本、S字型の曲線をグラフに描き足した。

「こんな風に、同じ形の曲線が120度ずつ回転した形になっているんだ。」
「そうなっているのかー、きれいだね。」
「これがわかると、もっと次数の高い曲線の姿も想像が付く。
 4次関数 y = x^4 + 1 は、4本の曲線がこんな風に、45度ずつ交互に組み合わさった形をしている。
 2次、4次といった偶数次数の曲線は、上下に分かれるんだ。」
「わあ、チューリップみたい。」
「はは、女の子らしいな。
 五次関数 y = x^5 + 1 は、上から見ると5角形。5本の曲線が交わった形をしている。」
「上から見ると、星みたいな形だね。」
「花に星か、ロマンチックだな。」
「きれいな方がいいでしょ。」
「そうだな。複素数のグラフは眺めていて飽きない、きれいな形をしている。
 もう1つだけ、y = x^3 - x という三次関数のグラフを描いてみよう。
 グラフは、実数平面上では凹凸を持つS次になっている。」
AはS字カーブを描いた後に、その凹凸の先に接する、2本の線を付け加えた。
「こんな形に、残りの2本の線がつながっている。」
「おもしろいね。あ、だから2つの答が実数になったり、虚数になったりするんだね。」
「そうなんだ。
 方程式にいろんな項を付け加えると、3本の線の形が変化してゆく。
 逆に言えば、線の形は変化するけれど、どこかに3本ある、ということ自体は変わらない。
 これが“代数学の基本定理”の直感的な理解なんだ。」
「“代数学の基本定理”・・・代数方程式は、複素数の範囲の中に、必ず答があるっていうこと。」
「そう、一見複雑な代数方程式は、グラフの線をグニャグニャ歪めた形をしている。
 方程式を解くというのは、その歪みを解きほぐす作業なんだ。
 ほら、さっきやった“チルンハウゼン変換”、あれは座標を中心に持って行くという作業だったじゃないか。」
「あっ、、、」
いま、私の中で、式の形とグラフの形が1つになった。
式を解きほぐす、グラフの歪みを解きほぐす、それは、1つの同じこと。
「2次関数だったら、解きほぐすのはやさしい。
 xの1次の項を付け加えても、放物線の形自体は歪まないからだ。
 なので、グラフの中心を移動するだけで済む。
 三次関数は、xの2次の項を付け加えると、形が歪む。
 なので歪みを解くのはたいへんだ。」
「それより上だったら、、、」
「それ以上だったら、さすがにグラフの形で解くには無理があるかな。」

・・・

「さて、それではもう1度、三次方程式の解き方をまとめておこうか。
 咲は、確か立方体を作るようにして三次方程式を解いた、と言っていたね。」

「ええ、三次方程式 x^3 + a x + b = 0 を解くのに、
 まず x^3 を別の形で表すところから取りかかるの。
 試しに x に v を足して、一辺の長さが x + v = u になる立方体を作って、
 x = u - v ってことにすると、
 x^3 = (u - v)^3 = u^3 - 3 u^2 v + 3 u v^2 - v^3 になるわ。」
「その方法は、カルダノという人が記録に残したものだね。」
「じゃあ、カルダノって人が最初に解いたの?」
「それが、どうやら最初に突破口を開いたのはダル・フェッロという人らしい。
 当時のイタリアでは発見を秘密にする風習があって、ダル・フェッロも公にはしなかった。
 次にタルターリャという人がそれを改良したのか、独力で見出したのか、とにかく答にたどりついた。
 最後にカルダノが本にして発表した。
 カルダノは解の公式に名を留めているけれど、実はこっそりタルターリャから聞き出したのだという憶説もある。」
※タルターリャは吃音という意味のあだ名で、本名はニッコロ・フォンタナ。
「ふーん、だとすると、ちょっとずるいね。」
「真相は歴史の闇に埋もれている。
 咲が聞いたのは、そのカルダノの方法を現代風に直したものだ。
 解法の続きを覚えているかい?」
「うん、最後までできると思う。」
私は、できるところまで計算を進めてみた。
立方体の x^3 を、最初の三次方程式に近づけるために、式の両辺に a x を足してみる。
  x^3 + a x = u^3 - 3 u^2 v + 3 u v^2 - v^3 + a x
x = u - v だから、a x = a (u - v) ってことで、
  x^3 + a x = u^3 - 3 u^2 v + 3 u v^2 - v^3 + a u - a v
この式から、3乗以外の項をなくしたい。そこで、
  - 3 u^2 v + 3 u v^2 + a u - a v = 0
と置く。これは
  -3 ( u v - a/3 ) (u - v) = 0
とまとまる。
後ろの方の (u - v) はゼロにならないから、前の方から
  u v - a/3 = 0
  u v = a/3
となる。つまり、最初から a = 3 u v を加えておけば、うまい具合に3乗の項だけの式が作れる。
そうすれば、さっきの式は
   x^3 + a x
  = u^3 - 3 u^2 v + 3 u v^2 - v^3 + 3 u v・u - 3 u v・v
  = u^3 - v^3
ってことになる。
最初の3次方程式は
  x^3 + a x + b = 0
だったから、この式の前半を u, v で置き換えて
  u^3 - v^3 + b = 0
u v = a/3 だったので、v = a /(3 u) を代入すると
  u^3 - (a /(3 u))^3 + b = 0
  u^3 - (a/3)^3・1/u^3 + b = 0
全体を u^3 倍して
  u^6 - (a/3)^3 + b u^3 = 0
これは u の6次式のようだが、u^3 = X と置くと、X の二次方程式になる。
  X^2 + b X - (a/3)^3 = 0
二次方程式を解の公式で解くと、
  X = u^3 = { -b ± √(b^2 + 4・(a/3)^3) } / 2
   = - b/2 ± √( (b/2)^2 + (a/3)^3 )
u は X の3乗根だから
  u = 3√{ - b/2 ± √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }
これでまず u が求まった。
次に v を求めたいのだが、u v = a/3 だったから、u^3・v^3 = (a/3)^3 となっている。
実は、計算すると3乗根の中身、±複合のそれぞれを掛け合わせたものが、
  { - b/2 + √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }・{ - b/2 - √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) } = - (a/3)^3
となっている。
( (p+q)(p-q) = p^2 - q^2 という展開にあてはめてみればわかる。)
つまり、u と v は、それぞれ
  u = 3√{ - b/2 + √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }
  v = - 3√{ - b/2 - √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }
ということだったのだ。
x = u - v だったから、求める答は
x = 3√{ - b/2 + √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }
   + 3√{ - b/2 - √( (b/2)^2 + (a/3)^3 ) }
「よくできたね。16世紀だったら歴史に名を残していたところだ。」
「今は21世紀だよぅ。」
「残念、500年の差があったな。でも、ちょっと待った。
 確か3次方程式は、答が3つあるんじゃなかったっけ?」
「あら、どうしてだろう?」
「よく見直してごらん。
 二次方程式で答が2つ出たのは、√をとるときにプラスマイナス2つがあったからだ。
 似たようなことが三次方程式でも無いかな?」
「・・・えーと、えーと、あ、そうか。
 立方根3√をとるとき、3つ出てくるんだ。」
「その通り。
 もし X = u^3 だったら、
  u = 3√X, 3√X ω, 3√X ω^2
 の3つの答が出てくる。
 この3つに対して、v の方は u v = a/3 となる組み合わせで
  v = 3√X, 3√X ω^2, 3√X ω
 といった形になるんだ。」
「うーんと、ω・ω^2 で1になるから、この組み合わせだけが残るんだね。
 6個の部品の組み合わせで、3個だけが残るんだ。」
「そう、その“6個のうちの3個”という感覚が、方程式の形を見る上で大事なところなんだ。
 それは、これから少しずつ話してゆこう。
 今日はもう遅いからね、おやすみ。」
複素数の形、方程式の形、正三角形、チューリップ、星形・・・
方程式には、隠された形があったんだね。

まとめ

・チルンハウゼン変換
  N次の代数方程式で、N-1次の項を消去するには、
    X = (x - P/N)    (P は N-1次の項の係数)
  といった置き換えを行う。
  これは、関数グラフの座標を最も解きやすい位置に移動する操作にあたる。

・複素数上でのグラフのイメージ
  複素数上で、N次式のグラフはN本の曲線が交わった形をしている。
  特に y = x^N のグラフは、上から見てN角形の対称性を持つ。
  最高次数以外の項は、そのN角形の線を歪ませている。

・三次方程式の解の公式(カルダノの解法)
  まず
    A X^3 + B X^2 + C X + D = 0
  から2次の項を消去する。
  全体を A で割って、次に
    X = (x - P/3)
  という置き換えによって、最初の式を
    x^3 + a^x + b = 0
  という形にまで簡略化する。
  
    U = - b/2 + √( (b/2)^2 + (a/3)^3 )
    V = - b/2 - √( (b/2)^2 + (a/3)^3 )
  
  という2つの数の三乗根のうち、
  積が - a/3 となっているものを
  3√U, 3√V とする。
  
  求める答 x は
    x = 3√U   + 3√V
    x = 3√Uω  + 3√Vω^2
    x = 3√Uω^2 + 3√Vω
  の3つとなる。
  
    ※ ω は1の三乗根、ω = (-1 + √3i) / 2
    ※ よりシンプルにするため、V の符号は上の説明にあった v と反対になっています。

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