勝負は互いに問題を出し合う形となった。
向こうからの問題は、士錬くんが。
こちらからの問題は、私が出すことになった。
そんな、急にいわれてもなあ。
私はあわててネット調べて、懸賞付きの問題を選んだ。
Factorize the following large number.
31074182404900437213507500358885679300373460228427275457201619488232064405180815
04556346829671723286782437916272838033415471073108501919548529007337724822783525
742386454014691736602477652346609
「こんなのでどうかな。」
「良いのではないか。力任せに解けば、何千年もかかる。」
こちらからの問題をにらんだ士錬からは、似たような問題がつきつけられてきた。
次の数字を素因数分解せよ。
27997833911221327870829467638722601621070446786955428537560009929326128400107609
34567105295536085606182235191095136578863710595448200657677509858055761357909873
4950144178863178946295187237869221823983
「なんか、こっちの方がちょっと長くない。」
不安そうに振り返る私に、Gは自信たっぷりに答えた。
「大丈夫、この程度の違いなら、問題無い。」
士錬の解読方法は、高分子素材の環境設定、測定、解析の3ステップだった。
3番目の解析はプログラムが自動的にやってくれる。
2番目の測定は、実は一瞬で済む。
一番難しいのは、最初の高分子素材作り。
これはもうほとんど職人芸で、どうやら士錬くん以外にはできないらしい。
一方のGはと言えば・・・“瞑想モード”に突入。
「計算機は、使わないのか?」
士錬くんの質問にも、Gは答えない。
たぶん、士錬くんには、寝てるか勝負をあきらめたように見えてると思う。
半ばあきれつつも、士錬くんは問題に取りかかった。
Gは全く動かない。
変な勝負だ。
暇になった私は、試しにポムに問題の数字を打ち込んでみた。
普通の計算プログラムにあてはめたら、すぐにCPUメーターが100%に上がって、
それっきりうんともすんとも言わなくなった。
今のGみたいに。
あたしはすっかり暇になった。
囚われのお姫様って、案外たいくつなのかもね・・・
明け方5時近くになって、士錬くんの第1ステップが完了した。
失敗がなければ、あとはもう機械的に答にたどり着くはずだ。
Gは、あいかわらずうんともすんとも言わない。
あれっ、これって士錬くんが勝ったら、どうなっちゃうんだろう?
やだ、急にドキドキしてきた。
「G、私のサーバント、起きてる?」
小声で呼びかけてみたけど、返事が無い。
まさか寝てんじゃないでしょうね。
ええい、もうどうにでも成れっ。
私は目を閉じて、手足を思いっきり放り出した。
「35324619344027701212・・・」
目を覚ましたのは、Gの数字の詠唱が耳に入ってきたからだ。
「・・・72604978198464368671197400・・・」
なんだろう、数字の列はまだまだ続く。
「・・・197625023649303468776121253・・・」
え、もしかして、答なの!
「・・・679423200058547956528088349、以上!」
午前7時、Gは暗算で素因数分解を完了した。
量子コンピューターより早かった。
私以上に呆然としたのは、士錬くん。
その時点で、解析結果が出るのは、あと2時間後の予定だったのに。
「ばっ、、何かのトリック、いや、リモートで計算していたのか。」
動揺を隠せない士錬は、まっすぐにGを見た。
「・・・信じられないけど、あんた、人間じゃないな。」
Gの人間離れした気配を、士錬くんは感じ取ったみたい。
「・・・かつては人間だった。 そう、ちょうど君のような、人間だった。」
Gの態度が少しだけ和らいだ。
「鏡宮士錬。」
今度はGが、まっすぐに士錬を見据えた。
「貴様を見ていると、私の前世を思い出す。憎悪と後悔に満ちた前世をな。」
士錬とGには、似たところがある。
Gはデタラメに召還されたわけじゃなかったんだ。
でも、きっと士錬とGとは、ソリが合わない・・・その通りになった。
士錬は反発の目をGに向け、Gは、自らの前世に対する憎悪のような目を士錬に向けた。
なので、Gの次の一言はとっても以外だった。
「・・・組まないか。」
さっき士錬が私に向かって言ったのと同じことを、今度はGが申し出た。
士錬くんも意表を突かれたみたい。
「俺は、あんたのことが嫌いだ。」
「ハッ、お互い気が合うな。私も君のことが嫌いだ。
特に、君のその数学に対する、愚かしいまでの理想と期待がね。」
出会ったころの士錬は、数学に青臭いまでの理想を掲げていた。
それが、夢を叶えた途端に、士錬の心は反対側に振れた。
絵に描いた理想ではなく、もっと“役に立つ”現実に。
やがて、士錬の量子コンピューターは答を弾き出そうとしていた。
その時刻が、Gの外での活動限界だった。
ほどなくGは姿を消した。
士錬の示した答は、
1634733645809253848443133883865090859841783670033092312181110852389333100104508
151212118167511579
正解だった。