★ Gとリンの数学夜話 ・ 第7回:四次方程式のリゾルベント ★
2009/09/01
「さて、前回の続きで、今回は四次方程式の解法を調べてみよう。」
「四次方程式の解法も、三次方程式と同じように、リゾルベントと補助方程式を作ることになる。
x1 x2 x3 x4
「それで?」x4 x1 x2 x3 x3 x4 x1 x2 x2 x3 x4 x1 「そして、最初に作った式と、次に作った式を比べると、 x2 と x4 を入れ替えたものだということに気付く。」 「そうだね、回転のイメージだと、90度と270度のところを上下逆さにしたみたいだね。」 「ということは、最初の式と、次の式の値を互いに入れ替える方法は4通りある。 これ、わかるか?」 「えーと、上下逆さにして、そこから90度ずつ回したのが4通り。」 「そういうことだ。」
上下逆さにして、そのまま
「そこでだ。2つの式を合わせて上下逆さにして、90度回転 上下逆さにして、180度回転 上下逆さにして、270度回転 (最初の式) + (次の式) という式を作ってみたら、この合わせた式の値を変えない入れ替えは、何通りある?」 「むむー、まず1つ1つの式の値を変えないのが4通りでしょ。 そんでもって、前後の式の値が入れ替わるのが4通り。 合わせて8通りの入れ替えについて、値を変えないみたい。」 「4つの x1〜x4 の入れ替え方法が24通り。 その中の8通りの入れ替えについて、この合わせた式は値を変えない。 で、24 ÷ 8 は?」 「3。。。あ、できた。」 「できたね。
(x1 + i x2 + i^2 x3 + i^3 x4)^4 + (x1 - i x2 - x3 + i x4)^4
この3つの式は、24通りの入れ替えを、3通りの値にまとめるリゾルベントになっている。」(x1 + i x2 + i^2 x4 + i^3 x3)^4 + (x1 - i x2 - x4 + i x3)^4 (x4 + i x2 + i^2 x3 + i^3 x1)^4 + (x4 - i x2 - x3 + i x1)^4 「あとはその3つの値を使って三次方程式作って、って、うわー、涙が出るくらいたいへんそう。」 「確かに、まともに挑んだら、かなり複雑な計算になるな。」 「・・・この辺で、やめとこっか。」 「マスターはすぐ怖じ気づくのだな。」 「あたしは無謀なことはしない主義なの。」 「ぐうたら主義だな。しかし、今の場合は正しい判断だ。 たとえこの三次方程式が解けたとしても、その先、最終的な4つの答にたどり着く段になって困ってしまう。」 「そうそう、これだけ複雑な式だと、その先もたいへんだよ。」 「4乗が2つも入っている連立方程式だから始末が悪い。 ここまで複雑にならなくても、もっと良いリゾルベントが他にもある。」 「え、どんなの、どんなの?」 「初心に帰って、ヤマカンで探してみたらどうだ?」 「いじわるぅ。」 「自分の頭で考えることが大事なんだ。」 「くうぅ。じゃ、初心に帰って、まず x1 + x2 + x3 + x4 って式は、、、だめだね。どんなに x を入れ替えても、結果は1通り。」 「・・・」(無言) 「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ変えてみよっかなー、、、てきとーに引き算にして、 x1 + x2 - x3 + x4 だと、だめみたいなよーな、、、」 「・・・」(無言) 「それじゃ、半分だけ引き算にして、 x1 + x2 - x3 - x4 とか・・・」 「それ、正解。」 「えっ、なんかやけに簡単に見つかったね。」 「難しく考えずに、とにかくやってみるっていうのも、以外に効果がある。 確かめてみよう。その式を (x1 + x2) - (x3 + x4) という風に見る。 この式の値を変えない入れ替えは、次の4つだ。」
・全てを全く入れ替えない
「でも、目指すのは8通りだから、あとの4通りはどうしようか。」・x1 ←→ x2 の入れ替え ・x3 ←→ x4 の入れ替え ・x1 ←→ x2 と x3 ←→ x4 の入れ替え 「入れ替えたら値が変わらないのではなくて、入れ替えたら値がマイナスになる、というものがあるだろう。 前半の (x1 + x2) と、後半の (x3 + x4) をガサッと大きく入れ替える。」 「えっと、つまり x1 ←→ x3 と x2 ←→ x4 を同時に行うってことだね。 あと、x1 ←→ x4 と x2 ←→ x3 っていう組み合わせもあるね。」 「そうだな。 式の値を変えない入れ替えが4通り、式の値をマイナスに変える入れ替えが2通り。 ということは、この式の絶対値を変えない組み合わせは全部で4・2 = 8通りになる。」 「値を変えない入れ替えの後に、マイナスに変える入れ替えを、続けてやった場合の数だね。」 「さて、絶対値が同じで、プラスマイナスだけが違っている数を、同じ値にそろえるには、どうしたらいいかな。」 「2乗してみるとか。」 「これで、できたろう。
( (x1 + x2) - (x3 + x4) )^2
という3つの式は、24通りの入れ替えを、3通りの値にまとめるリゾルベントだ。」( (x1 + x3) - (x2 + x4) )^2 ( (x1 + x4) - (x2 + x3) )^2 「わ、できちゃった。」 「今度のリゾルベントの方が、さっきのものよりだいぶ簡単だ。 実は、まだ別のリゾルベントが考えられる。」 「え、まだあるの。」 「 (x1 + x2) - (x3 + x4) という式を見てごらん。 これとそっくりな式を、他にも作れないか。」 「えーっとね、真ん中の - を ÷ に変えてみるとか。」 「それは良いアイデアだが、(x3 + x4) = 0 だったときに困るだろう。」 「そっか。じゃ、+ のところを、掛け算に変える。」 ( x1・x2 - x3・x4 )^2 「うむ、理屈上はこれでもいいのだが、さらに簡素化できて、実はこんな式でもOKだ。 x1・x2 + x3・x4 調べてみてごらん。」 「ええと、
・全てを全く入れ替えない
4通りの入れ替えと、2通りの入れ替えの組み合わせで、4・2 = 8通り。・x1 ←→ x2 の入れ替え ・x3 ←→ x4 の入れ替え ・x1 ←→ x2 と x3 ←→ x4 の入れ替え あと、 ・x1 ←→ x3 と x2 ←→ x4 の入れ替え ・x1 ←→ x4 と x2 ←→ x3 の入れ替え 確かにね。 でも、こんな式、答を教えてもらったからわかったけど、自分で見つけるのなんて、ほとんど無理。」 「そうだな。理屈はそれなりに後付けできるが、最初に見つけたのは、試行錯誤の末だろう。」 「きっと最初はヤマカンで、いろいろやってみたんだね。」 「ああ、ヤマカンは言い過ぎかもしれないが、頭と手を動かしていろいろやってみたのに違いない。 今見たように、リゾルベントは決して1通りではない。 いろんなリゾルベントを考えることができて、それに合わせていろんな方程式の解法ができる。 しかし、どんなリゾルベントであっても、“24通りの入れ替えをを3通りにまとめる”という基本は変わらない。」 「なるほどー。答の入れ替えとか、対称性とか言ってた意味が、ちょっとだけわかってきたよ。」 「整理してみよう。 最初に3次方程式を真似て作った式、この形の式は“ラグランジュのリゾルベント”と呼ばれている。 複素平面上の単位円を、角度でN個に分割したようなイメージだ。」
x1 + ω x2 + ω^2 x3 -- 三次方程式(120度ずつ回転)
「これだと、二次方程式はx1 + i x2 + i^2 x3 + i^3 x4 -- 四次方程式(90度ずつ回転)
x1 - x2 -- 二次方程式(180度ずつ回転)
ってことになるのかな。」「そういうことになるな。 リゾルベントという考え方で、二次方程式の解の公式を導くのは、こんな感じだ。」
二次方程式 a x^2 + b x + c = 0 のリゾルベントを、三次方程式と同じように、
「へー、ちょっと計算たいへんだけど、とにかく“ラグランジュのリゾルベント”で三次方程式までは機械的に解けちゃうんだ。」(x1 - x2)^2 と置いてみる。 このリゾルベントを、解と係数の関係 b/a = x1 + x2 c/a = x1・x2 を用いて、もとの方程式の係数で表せば (x1 - x2)^2 = x1^2 - 2 x1 x2 + x2^2 = (x1 + x2)^2 - 4 x1 x2 = (b/a)^2 - 4 (c/a) となる。 つまり、リゾルベント (x1 - x2)^2 = (b/a)^2 - 4 c/a ということなのだから、 (x1 - x2) = √(b^2 - 4 a c) / a これと、解と係数の関係にある1つの式 x1 + x2 = b/a を連立させることによって、解の公式 x1, x2 = -b ± √(b^2 - 4 a c) / 2 a が得られる。 「ラグランジュという人は、いわば“機械化の魔術師”だと思うな。 彼は方程式の研究だけでなく、解析力学の創始者でもある。 “数学に基づく思考経済”という点で、ラグランジュのアイデアには、一本筋の通ったものが感じられる。」 「でも、数式だらけで、なんかとっつきにくい感じ。」 「マスターのような数式アレルギーにはキビシイかもな。 方程式の歴史も、幾何学的なイメージから、抽象的な記号へと、時間をかけて進化してきた。 それと同じで、マスターも時間をかけて、少しずつ記号化していけばいい。」 「うー、先が長いんだー。」 「さて、残る2つのリゾルベントについてだが、 ( (x1 + x2) - (x3 + x4) )^2 このリゾルベントを元にした、四次方程式の解法がある。 実質的に、オイラーの解法と呼ばれているものと同じなのだが、今回は省略しよう。」 「ふうっ。」 「最後に x1・x2 + x3・x4 というリゾルベント。 これが以前やってみた、フェラーリの解法に対応している。 なので、このリゾルベントを用いて最後まで方程式を解いてみよう。」 「えと、リゾルベントから補助方程式を作ってみるんだよね。」
3つのリゾルベントを R1, R2, R3 とすると、補助方程式は
「うぇー、また涙のこぼれるような計算だよー。」(t - R1)(t - R2)(t - R3) = 0 t^3 - (R1 + R2 + R3) t^2 + (R1・R2 + R2・R3 + R3・R1) t - (R1・R2・R3) = 0 となる。 この補助方程式に登場する係数の部分(R1〜3の式)を、もとの四次方程式 x^4 + a x^3 + b x^2 + c x + d = 0 の係数、a,b,c,d で表したい。 それには、解と係数の関係 x1 + x2 + x3 + x4 = -a x1 x2 + x1 x3 + x1 x4 + x2 x3 + x2 x4 + x3 x4 = b x1 x2 x3 + x2 x3 x4 + x3 x4 x1 + x4 x1 x2 = -c x1 x2 x3 x4 = d を使う。 計算すると・・・ 「仕方ない。ここはバトンタッチしよう。」
補助方程式の係数は、もとの方程式の係数を用いて、次のように表される。
「この補助方程式を、以前のフェラーリの解法の、途中で出てきた三次方程式と比べてみてごらん。R1 + R2 + R3 = b R1・R2 + R2・R3 + R3・R1 = a c - 4 d R1・R2・R3 = a^2 d - 4 b d + c^2 つまり、三次方程式 t^3 - b t^2 + (a c - 4 d) t - (a^2 d - 4 b d + c^2) = 0 を解くことによって、R1, R2, R3 の値を得ることができる。 実質的に同じものになっているはずだ。」 私は以前のノートを見直してみた。(第5話参照)
8 y^3 - 4 a y^2 - 8 c y + 4 a c - b^2 = 0
「ぱっと見には違う式みたいに見えるけど。」「以前解いたときと、記号が少しずつ食い違っているな。 以前のときは、もとの方程式を簡単にして x^3 の項を消去した x^4 + a x^2 + b x + c = 0 からスタートしていた。 なので、今回の結果と合わせるなら ・今回の結果の x^3 の係数、a=0 にする。 ・今回の結果に合わせて、前回の結果を1文字ずつずらす、a -> b、b -> c、c -> d 。 ・t = 2y となっている。 この3つの補正を行ってみよう。」
t^3 - b t^2 - 4 d t + 4 a c - b^2 = 0
「ほんとだ、同じになってる。」「つまり今やってきた計算は、フェラーリの解法をリゾルベントという視点から見直したものだ。」 「なるほどね。でも、前にやったことを、ますます難しくしているだけみたい。」 「ただ答を出す、という目的のためだけなら、そうだろう。 しかし今やっていることは、“なぜ五次方程式は解けないか”その秘密を探るため、 方程式の解き方を見直していたところだ。 こうして見直してみると、リゾルベントという式が、重要な働きをしていることに気付くだろう。」 「そうだね。 結局わかったのは、24通りを3通りに減らすプロセスが入ってたってことだね。」 「これで核心部はクリアーした。 あとはひたすら計算を推し進めるだけだ。」
リゾルベントの形を見ると、x1・x2 が1つの塊、x3・x4 がもう1つの塊になっている。
「・・・やっと解けた。こうして見ると、けっこうたいへんだね。」この塊をうまく生かすことを考えてみよう。 もし、x1・x2 の他に、x1 + x2 という塊も見つかれば、x1、x2 は二次方程式 t^2 - (x1 + x2) t + x1・x2 = 0 の解として得られることになる。 同じように x3 + x4 という塊も見つかれば、x3、x4 は二次方程式 t^2 - (x3 + x4) t + x3・x4 = 0 の解として得られる。 改めて、解と係数の関係を、こんな風に見直してみる。 (x1 + x2) + (x3 + x4) = -a x1 x2 + (x1 + x2)(x3 + x4) + x3 x4 = b x1 x2 (x3 + x4) + x3 x4 (x1 + x2) = -c (x1 x2) (x3 x4) = d こうして見ると、x1 と x2 の組、x3 と x4 の組でもって、 全てが表せることに気付く。 以上の方針に従って、 x1・x2 という塊を x1・x2 = U1、x1 + x2 = V1 x3・x4 という塊を x3・x4 = U2、x3 + x4 = V2 と置く。 改めて解と係数の関係を書き直すと V1 + V2 = -a U1 + U2 + V1・V2 = b U1・V2 + U2・V1 = -c U1・U2 = d となる。 U1, U2 は、次の u についての二次方程式の解となっている。 u^2 - (U1 + U2) u - U1・U2 = 0 補助方程式の解を t とすると、t はリゾルベントの1つなのだから、上の式は u^2 - t u - d = 0 となる。ここから U1, U2 が求まる。 一方、V1, V2 は解と係数の関係の V1 + V2 = -a U1・V2 + U2・V1 = -c から求めることができる。 V1 = U1 (a - c) / (U2 - U1) V2 = U2 (a - c) / (U1 - U2) これで U, V が求まった。 最終的な x1, x2 は二次方程式 z^2 - V1 z + U1 = 0 z^2 - (x1 + x2) z + x1・x2 = 0 の解になっており、また x3, x4 は z^2 - V2 z + U2 = 0 z^2 - (x3 + x4) z + x3・x4 = 0 の解となっている。 「いかんせん四次方程式だからな。 二次方程式と比べれば、複雑さは段違いだ。 四次方程式の解の公式を、無理矢理一本にまとめようとすれば、こうなる。」 「ぎょえー! もういいよ、おなかいっぱい。」 「ついでに、三次方程式はこんな感じだ。」 「ふぇーん、こんなの絶対覚えらんないよー。」 「別に覚える必要は無い。 必要であれば、説明でやったように1ステップずつ進んでゆけば良いし、 答が知りたいのなら、コンピューターが充分な精度で出してくれる。」 「じゃあ、公式の意味って、あんまり無いのかなあ。」 「そうだな。公式自体よりも、途中のステップの方が大事だな。 結果を覚えるよりも、公式を作り出すための考え方を知っておいた方が、ずっと応用が効くぞ。」
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