「とっころで、このコーナーのタイトルなんですけどー。
なんで主人公のあたしが後で、Gが先なわけ。
Gなんて、何もしていないじゃない。
マスターのあたしが先、サーバントのGが後!」
「入れ替えても一緒じゃないのか?」
「ちがう、あたしがやってるっていうのが大事なの!」
「マスター、、、そういったところで、
方程式でも、入れ替えても同じなのか、入れ替えたら変わってしまうのか、
という性質が重要な鍵になる。」
「あー、強引にテーマに持ち込んだなっ。」
「Gとリンには対称性があるってことでいいだろう。」
「リンとG」
「はいはい、リンとGね。」
Gは、ため息を漏らした。
「さて、方程式を解くための鍵は、
変数を入れ替えたとき、式の値が同じになるのか、変わってしまうのか、というところにある。
重要な考え方だから、しつこく繰り返そう。」
★ 方程式を解くためには、答を入れ替えても全く変わらないような原料から、
入れ替えて変わる結果を作り出さなければならない。
「三次方程式のときは、たしかそれで6個の答が3個にまとまったみたいなんだけど。。。
なんかイマイチ、ピンとこないんだよね〜。」
「それをはっきりさせるために、もう一度、方程式の解法の流れを整理してみよう。」
* 三次方程式
・立方完成 (式)^3 = 定数 という形を目標に、式の変形を行う。
・その結果、途中で6次式が出てくるのだが、これは X = x^3 の2次方程式となっている。★
・2次方程式を解いて X を求め、その三乗根から最終的な答 x を求める。
* 四次方程式
・平方完成 (式)^2 = (式)^2 という形を目標に、式の変形を行う。
・その結果、途中で3次方程式が出てくる。★
・3次方程式の答を平方完成したもとの式に戻すと、あとは2つの二次方程式となる。
・2つの二次方程式を解いて、最終的な4つの答を得る。
「どっちもだんだん次数を下げて解くんだね。」
「そう、次数の高い方程式では、一足飛びに最終的な答にはたどり着けない。
そうなると、次数を下げる途中に方程式が登場することになる。
★の付いたところだ。」
「そうだね、この★の方程式にたどり着けば、もう勝ちみたいなものだよね。」
「ラグランジュもそう考えた。
そして、この途中に出てくる★の方程式の意味を、さらに深く掘り下げたのだ。
★の方程式は“補助方程式”と呼ばれている。」
「でも、それが“答を入れ替えてみること”と、どう関係しているの?」
「補助方程式の解には、“最初に与えられた方程式の答を入れ替えても、バラバラには変化しない”という、特別な性質があるんだ。」
「え、何のこと?」
「三次方程式で言えば、最初に与えられた方程式の答は3つ、x1, x2, x3 だろう。
この3つを入れ替える方法は、全部で6通りあった。」
「うん、それで。」
「しかし、補助方程式は2次式だから、解は2つしかない。
ここで6通りが2通りにまとまっている。
つまり、補助方程式を見つけ出せという問題は、
“3つの数をいろいろ入れ替えても、結果が2通りになるような解を用意しろ”ってことだ。」
「うーんと、三次方程式の答は3通り、じゃなくて、2通りなのかな、あれっ?!」
「補助方程式の解は2通りになる。
3次よりも次数の低い、2次方程式に帰着したのだから、解は2つしか出せない。
そこで、まず3つの数をいろいろ入れ替えても、結果が2通りになるような式を作る。
次に、その2通りの結果が解となるような、二次方程式を作る。
それが補助方程式だ。ややこしいぞ。」
「ほにゃ?」
「操作は2段階あるんだ。
1.大元の3次方程式の3つの答を使って、答をどのように入れ替えても、結果が2通りに収まるような式を作る。
2.1.の2通りの結果を解とするような、二次方程式を作る。
2.でできあがった式が補助方程式だ。
1.で作った式は“リゾルベント”と呼ばれている。」
「うぅ、、、」
「解法の流れを、最終的な答から逆にたどっていると考えれば、いくぶん分かりやすいのではないかな。」
「・・・ゆっくり考えてみるよ。リゾルベントって、日本語で言えば“解くもの”?」
「分解式という言い方があるみたいだな。
とにかく、ここで解法の流れをしっかり押さえておかないと、わからなくなるぞ。」
三次方程式
↓
補助方程式(リゾルベントを答に持つ二次方程式)
↓
リゾルベント(最終的な3つの答を入れ替えても、値が変わらない式。2つ出てくる)
↓
最終的な答(x1, x2, x3)
私はお茶を飲みつつ、解法の流れを頭に入れた。
Gもお茶してた。使い魔だって、お茶を飲むんだよ。
「さて、ここからの話は、方程式を解くのと反対に、答から逆にたどることになる。
・答があるものとして、3つの変数からリゾルベントを作る。
・リゾルベントから補助方程式を作る。
・そうして解法を完成させる。
こんな感じだ。」
「OKでーす。」
「まずはリゾルベントの作り方だ。
ただむやみやたらと結果が2通りになる式を作ればいい、というものでもない。
リゾルベントから最終的な答が導き出せるようでないと、目的が果たせない。」
「そうだね。えっと、三次方程式の場合は、、、」
「“リゾルベント = x^3”という形になっていた。
だから三乗根をとれば、最終的な答が出せたというわけだ。」
「なるほど。」
「もう1つ条件がある。
“3つの答をえこひいきなく、平等に使わなくてはならない”。」
「それって、どういうこと?」
「補助方程式は、大元の方程式から作り出せないと意味が無い。
ところが大元の方程式は、まだ答が未分化の状態、全ての答が平等に含まれた状態になっている。
マスターは、“解と係数の関係”ってものを知っているか?」
「えと、二次方程式なら知ってるよ。
x^2 + a x + b = 0 の2つの答を α、βってすると、
a = α + β
b = αβ
ってなるんだよね。」
「そう、よくできた。
元の二次方程式が
(x - α) (x - β) = 0
という形に因数分解できたなら、これを展開すれば
x^2 + (α + β) x + αβ = 0
になる。
これと最初の
x^2 + a x + b = 0
を比べれば、係数 a, b を、答の α、βで表すことができるわけだ。
そこで、この“解と係数の関係”の a と b をよく見てごらん。」
「うーん、、、確かに、αとβが平等に入っているね。」
「そう、αとβが、どちらも2個ずつ登場する。
そして、αとβを入れ替えてみても、元の二次方程式の a と b は変化しない。」
「それが“平等”ってことか。」
「二次方程式でやったのと同じことを、もっと上の方程式でも見てみよう。」
* 三次方程式の解と係数の関係
x^3 + a x^2 + b x + c = 0 と
(x - α) (x - β) (x - γ) = 0 を展開して比べると
- a = α + β + γ
b = αβ + βγ + γα
- c = αβγ
* 四次方程式の解と係数の関係
x^4 + a x^3 + b x^2 + c x + d = 0 と
(x - α) (x - β) (x - γ) (x - δ)= 0 を展開して比べると
- a = α + β + γ + δ
b = αβ + αγ + αδ + βγ + βδ + γδ
- c = αβγ + βγδ + γδα + δαβ
d = αβγδ
「なんか、答の文字がぐるぐる回っているみたいだね。」
「そう、ぐるぐる回しても、結果が変わらない。
こんな風に、文字を入れ替えても値が変化しない式のことを“対称式”と呼んでいる。
その中でも特に、この解と係数の関係に登場する式は“基本対称式”だ。」
「どの辺が基本なの?」
「実は、どんな対称式も、基本対称式の組み合わせで表すことができるんだ。
だから、基本。」
「へー、うまくできてるんだ。」
「確かに美しい結果だ。ただし、計算して確かめてみるのはかなり大変だぞ。」
「・・・だったら今日のところはいいってことで・・・」
「そうだな、リゾルベントの作り方に戻ろう。
ここまでの話から、リゾルベントとは、次の3条件を満たすような式のことだ。」
(三次方程式の場合)
1.リゾルベントから、最終的な3つの答が導き出せなければならない。
2.3つの数をいろいろ入れ替えても、結果が2通りになるような式であること。
3.3つの答をえこひいきなく、平等に使わなくてはならない。
つまり、補助方程式は基本対称式で表せないといけない。
「この3条件を満たす式を、作り出せるかな?」
「はい、はい、はーい。」
「なんだ、もうできたのか。」
「x1 + x2 + x3 ってのは、どうかな。
入れ替えても変わらないよ。」
「うーむ、それだと結果が2通りではなくて、1通りになってしまうな。
その式から、どうやって次の二次方程式を作り出すんだ?」
「そっかぁ。。。じゃあさ、x1・x2 + x3 ってのは?」
「それだと結果は3通り。マスター、あまり考えてないだろう?」
「えへへ、でもさぁ、入れ替えて2通りになる式って、けっこう難しいよ。
ほんとに四則演算だけで、できるのかなあ。」
「そう、単純に答の和や積を作っても、2通りになるような式は作れそうにもない。
そこでヒントを出そう。
三次方程式の場合、1の三乗根ωという数が重要な役割を果たす。
1からスタートして、ωずつ掛け合わせてゆくと、その値は複素平面上を三角形にぐるぐる回ることになる。
1・ω = ω、ω・ω = ω^2、ω^2・ω = 1。
1 → ω → ω^2 → 1 という順番に入れ替わっているだろう。
この3回で一巡するωの性質を上手く利用するんだ。」
「じゃあ、x1 + ω x2 + ω^2 x3 とか。。。あ、これじゃだめか。」
「惜しい、あと一息。」
「え、これっていい線いってる?」
「今作った式には、際だった性質がある。
この式にωを掛けてゆくと、x が順番に入れ替わってゆくんだ。」
(x1 + ω x2 + ω^2 x3)・ω = x3 + ω x1 + ω^2 x2
(x3 + ω x1 + ω^2 x2)・ω = x2 + ω x3 + ω^2 x1
(x2 + ω x3 + ω^2 x1)・ω = x1 + ω x2 + ω^2 x3
「ほんとだー、ぐるぐる回るんだね。」
「そう、ここに書いた巡回パターンが3通りだ。
ところで、x1, x2, x3 の順列は全部で6通りあったのだから、
ここに入っていない組み合わせが、あと3通りあるはずだ。」
「ええと、あ、そうか。
1カ所順番を入れ替えればいいんだよ。」
(x1 + ω x3 + ω^2 x2)・ω = x2 + ω x1 + ω^2 x3
(x2 + ω x1 + ω^2 x3)・ω = x3 + ω x2 + ω^2 x1
(x3 + ω x2 + ω^2 x1)・ω = x1 + ω x3 + ω^2 x2
「その通りだ。
こうしてωを使って回してみると、3個ずつ、2つの巡回ループができるだろう。
この2つの巡回ループを、うまいこと2通りの結果にあてはめるんだ。」
「うまいことって、、、例えば?」
「例えば、3つある式を合わせて1つにしてみるとか。」
「それじゃ、3つを合体させちゃえ。」
1つ目のループの3つの式を掛け合わせたもの:
(x1 + ω x2 + ω^2 x3)・(x3 + ω x1 + ω^2 x2)・(x2 + ω x3 + ω^2 x1)
2つ目のループの3つの式を掛け合わせたもの:
(x1 + ω x3 + ω^2 x2)・(x2 + ω x1 + ω^2 x3)・(x3 + ω x2 + ω^2 x1)
「ほら、これで2つになったよ。」
「そうだな。
よく考えると、この2つの式は、もう少し簡単になるぞ。」
「えー、因数分解とか、難しい式は苦手だよー。」
「そう言うと思った。先に答を言おう。」
1つ目のループの3つの式を掛け合わせたもの:
(x1 + ω x2 + ω^2 x3) ^ 3
2つ目のループの3つの式を掛け合わせたもの:
(x1 + ω x3 + ω^2 x2) ^ 3
「あ、ここまでスッキリしちゃうんだ。」
「x1 + ω x2 + ω^2 x3 という式には特別な性質がある。
ωを掛けることと、x1 -> x2 -> x3 -> の入れ替えが、同じになるということだ。」
1つ目のループの3つの式を掛け合わせたもの:
(x1 + ω x2 + ω^2 x3) ・(x3 + ω x1 + ω^2 x2)・(x2 + ω x3 + ω^2 x1)
--- ω^3 = 1 だから、ωを3つ入れても式の値は変わらないはず。
= (x1 + ω x2 + ω^2 x3)・ω^2 (x3 + ω x1 + ω^2 x2)・ω (x2 + ω x3 + ω^2 x1)
--- なので、こんな風にωを配置してやると、3つの(かっこ)の中身が同じになる。
= (x1 + ω x2 + ω^2 x3)・(x1 + ω x2 + ω^2 x3)・(x1 + ω x2 + ω^2 x3)
= (x1 + ω x2 + ω^2 x3)^3
「ほんとだー。なんか、手品みたい。」
「これで、リゾルベントができた。
(x1 + ω x2 + ω^2 x3)^3 という式は、3つの答の入れ替えに対して2種類の異なる値を取る。」
1つ目のループになる組み合わせ:
x1, x2, x3 -- これがもともとの順番
x3, x1, x2 -- 1つずつ→にシフト
x2, x3, x1 -- もう1つ→にシフト
2つ目のループになる組み合わせ:
x1, x3, x2 -- もともとの順番から、x2 ←→ x3 の一カ所だけ入れ替えた。
x2, x1, x3 -- 1つずつ→にシフト
x3, x2, x1 -- もう1つ→にシフト
「確かに6つの入れ替えで、2種類の値になったね。
これで第一段階終了だ。」
「続いて、次の第二段階に入ろう。
次にすべきことは、リゾルベントから補助方程式を作り出すこと。
つまり、2つのリゾルベントを答に持つ二次方程式を作ることだ。」
「はい、はい、今度こそ、はーい。」
「今度もやけに早いな。」
「えっへん。
答がわかっている二次方程式を作るのなら、簡単だよ。
2つのリゾルベントを R1, R2 ってすると、補助方程式は
(t - R1) (t - R2) = 0
t^2 - (R1 + R2) t + R1・R2 = 0
ってなるよね。」
「・・・」
「あっ、いま“意外とわかってるんだな”って思ったでしょ。」
「・・・一言余計だ。
では、そのわかっているついでに、最後の段階の計算に入ろう。」
「はーい。」
「最後の段階は、おおもとの三次方程式から、補助方程式を作り出すことだ。
もとになる三次方程式
x^3 + a x^2 + b x + c = 0
にある、3つ係数 a, b, c を使って、
補助方程式に出てくる係数 R1 + R2 と、R1・R2 を表せ、という問題だ。」
「えと、さっき出てきた解と係数の関係、ってのを使えばいいんだよね。」
- a = x1 + x2 + x3
b = x1 x2 + x2 x3 + x3 x1
- c = x1 x2 x3
「この3つを使って R1 + R2 を表せってことだけど・・・
なんか、すごーく計算大変そう。」
「やりがいのある問題だな。」
「・・・Gってさあ、立場上あたしのサーバントなんだよねー。」
「・・・さてはやる気が無いな。」
「こんなの無理無理、1週間かけても無理!」
「仕方ない、ざっと結果だけ流そう。」
1つ目のループの式を展開:(これをR1とする)
(x1 + ω x2 + ω^2 x3) ^ 3
= x1^3 + x2^3 + x3^3 + 6 x1 x2 x3
+ 3 ω (x1^2 x2 + x2^2 x3 + x3^2 x1 )
+ 3 ω^2 (x1 x2^2 + x2 x3^2 + x3 x1^2 )
2つ目のループの式を展開:(これをR2とする)
(x1 + ω x3 + ω^2 x2) ^ 3
= x1^3 + x2^3 + x3^3 + 6 x1 x2 x3
+ 3 ω (x1 x2^2 + x2 x3^2 + x3 x1^2 )
+ 3 ω^2 (x1^2 x2 + x2^2 x3 + x3^2 x1 )
R1 + R2 を計算して整理すると:
2 (x1 + x2 + x3)^3 - 9 (x1 + x2 + x3)(x1 x2 + x2 x3 + x3 x1) + 27 x1 x2 x3
= - 2 a^3 + 9 a b -27 c
R1・R2 を計算して整理すると:
((x1 + x2 + x3)^2 - 3 (x1 x2 + x2 x3 + x3 x1)^3
= (a^2 - 3 b)^3
以上より、補助方程式は
t^2 - (R1 + R2) t + R1・R2 = 0
t^2 + (2 a^3 - 9 a b + 27 c ) t + (a^2 - 3 b)^3 = 0
となる。
「これで全てがつながった。
補助方程式を解けば、R1 と R2 が求まる。
R1 と R2 がわかれば、そこから x1, x2, x3 が求まる。
これでめでたく三次方程式が解けたというわけだ。」
「ふう、疲れた。」
「・・・結局私が計算したような気がするのだが・・・」
「いいの、解けたんだから、結果オーライ。」