Gの夢 -- Story Part
第9話 めぐりあい友
2009/09/01  
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すっかり反発し合ったGと士錬。
それでも私たちは、会わない訳には行かなかった。
それは、第3のハッカーの正体を確かめるため。
今回の月の周期のうちに会っておかないと、次のチャンスが丸々1ヶ月後になってしまう。
第3のハッカーとの待ち合わせも、計算センターで行うことにした。
今度は、士錬くんと私たちの、両方からメッセージを送った。

今回の待ち合わせでは、私はもうニヤついた顔をしてはいなかった。
それは士錬くんも同じで、2人して、黙って、ムスーっとした顔して、正体不明の客人を待った。
あれから、士錬くんとはまともに口を利いていない。
恋のキューピットどころか、変にこじれた溝が、私と士錬くんとの間にできた。
それでも、第3のハッカーが入ってきたとき、私と士錬くんの反応は全く同じだった。
「咲ちゃん?!」
「リンちゃん?!」
「初桐さん?!」
くくぅー、台所戦争の再現かよっ!
「え、えーと、シレンくん何かお仕事抱えてるみたいだし、、、きっと困ってるんじゃないかなって、その・・・」
どうして、この場に最もふさわしくない、咲ちゃんが?
私は、ある1つの結論に達した。
「ひょっとして、咲ちゃんって魔法使いなの?」
「えっ、どうしてそれが・・・」
やれやれ、この娘は何でも顔に出ちゃうタイプだ。
「もう隠れている必要ないわよ、G。」
Gの姿が実体化した。
「もう出てきてもいいよ、A。」
咲ちゃんも分かったようだ。
「A!」
急に、Gの表情が驚きに変わった。
「まさか、こんな形で巡り会うとは・・・」
唖然とするGに、Aはにこやかに応えた。
「生きているうちに、パリで会っておきたかったよ、G。」
なに、なに、この2人って知り合いだったの?
前世からの因果ってやつ?!
「もし出会っていれば、歴史が変わっていたはずだ。」
「ならば、今、ここで歴史を変えて見せようか。」
2人は屈託なく笑った。
それが、前世で巡り会うことの無かった、朋友との出合いだったのだ。

「さて、語り明かしたいところだが、我々に残された時間は限られている。」
Gは士錬くんの方を振り返った。
「鏡宮士錬、君の仕事がどんな成果を上げているか、見たくはないか。」
士錬くんは、もう意外だという顔はしなかった。
「俺の解析結果が、どこでどう使われようと知った事じゃない。
 きっと、表沙汰にできないところに流れているのは確かだろうし、
 おそらく日本でもない。」
もちろん士錬だって、依頼主のIPアドレスを追跡して正体を探る努力はした。
しかし発信元は、オーストラリア、シンガポール、上海を経て、闇の中へと消えていった。
簡単に尻尾を出すような相手ではなかったのだ。
どのみち、知ってどうするというのだ。
士錬にとって大切なのは、仕事に対する高い評価、現実に送られてきた資金、そして何よりも目前の仕事そのものだった。
大方の予想は付いていた。
依頼内容の実質が、暗号解読、クラッキングであることを。
しかし、末端の1部品、単なる高速計算機に過ぎない士錬にとって、その全容が何であるのか、全く想像の域を出なかった。

Gは1つのデータにアクセスした。
それは、原油価格取り決めに関する、産油国の高官と米企業のホットラインだった。
「ここにアクセスできたのは、君の成果の一部だ。
 そのおかげで、彼らは原油の利ざやを通じて莫大な富を得ることができた。」
次にGがアクセスしたのは、大豆の作付けに関する、一見退屈そうで膨大なデータの山だった。
「ここも、本来なら非公開データだ。
 公開前に知っていれば、相当有利にコトを運ぶことができる。」
そんなこと、確かニュースで言ってたっけ?
・・・なーんか、実感湧かないよねー・・・
以前も同じことを思った。
でも、スパイ映画よりも投機の方が、もっともっと実感が湧かない。
それでもこれは映画なんかじゃない。
れっきとした事実なんだ。
「だから、どうした。
 俺に正義の味方にでもなれっていうのか。
 関係無いね、どこのどいつが儲けようが、首くくろうが。
 俺は、俺にできることをするだけだ。」
「ハッ、善悪なんてものは、時と共にうつろう、弱く儚い存在だ。
 君も、私も、そんなものに憧れてきたのではないだろう。」
そう言って、Gは最後のデータにアクセスした。
それは、HAL研のプレプリントだった。
「これは、君の解析結果によるクラッキングではない。
 それでも、君の仕事の結果であるには違いないのだが。」
士錬くんは、食い入るようにプリントの内容を見つめた。
「・・・これって、俺のと、同じ?!」
士錬くんの顔から、みるみる血の気が引いていくのがわかった。
「そう。
 恐らく君のやってきたことが、そのまま記載されているのだろう。
 なぜ、彼らはこれを持っている。
 単なる偶然なのか。」
Gがとどめを刺すように言い放った。
「それが、君の立ち位置だ。」
士錬くんには、返す言葉も無かった。
「近いうちに、世界規模で市場に波乱が巻き起こる。
 下手をすれば恐慌になるかもしれない。
 そして混乱が収拾した頃を見計らって、このプレプリントは正式な論文となって、世界に向けて公開されるだろう。
 それで君のしてきたことは、地上から抹殺される。」
Gと士錬くんとの間に、沈黙が流れた。
私と、咲ちゃんと、Aは、かたずを飲んで見守った。
「その前に、男としてやっておくべきことは無いのか。
 世間的な名声を勝ち得るのでもない。
 非合法すれすれに手を染めて、遊んで暮らせる金を稼ぎ出すのでもない。
 男として、やるべきことが。」
「・・・G、」
だいぶたってから、士錬くんが応えた。
士錬くんが“G”って呼びかけたのは、これが初めてだ。
「1つだけ、聞きたいことがある。」
ようやく士錬くんは顔を上げた。
「どうして、そこまでして俺を助けたいんだ。
 Gは、正義の味方なのか?」
「正義、」
吐き捨てるようにGは言った。
「そんな下らないものは、前世と共に捨てた。
 今の私を突き動かしているのは、復讐だ。
 これは憎悪と後悔に満ちた前世への、私なりの復讐なのだ。」
“復讐”という言葉が、2人の間にあったわだかまりを取り払ったみたいだ。
Gと士錬は、仲間になった。
そして、咲も、Aも、私も。
魔法の力に導かれて集まった、仲間たちだ。

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