Gの夢 -- Mathematical Part
★ Gとリンの数学夜話 ・ 第1回:解ける、解けない ★
2009/09/01  
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「それでは我がマスター、方程式が解けない、というのはいったいどういうことだろう。」
「そんなの、難しくて、理解を超えてるからに決まってるじゃない。
 どーせあたしはバカだから、難しい方程式なんて解けませんよーだ。」
「ハハッ、すでにマスターは2つの過ちを犯しているな。」
むかっ、こいつはどこまでひねくれてるんだろう。
「1つ目の過ちは“バカだから、難しい方程式なんか解けない”ってところだ。
 解けるかどうかと、バカかどうかには何の関係もない。」
「へっ、そうなの。」
「バカか利口かで言えば、数学者なんてのはバカの集まりだ。
 本当に利口なやつだったら、数学者なんていう割に合わない生き方はしない。」
こいつは世界中の数学者を敵に回してんのか!
まあ、確かに、ガッポガッポ儲けてる学者先生なんて、思いっきりうさんくさいけどね。
「逆に言えば、数学者が解けないと断言した方程式は、どんな天才でも解けないってことだ。
 2つ目、方程式が解けないのは、難しいからではない。」
「そんなぁー。あたしがテストで苦労するのは、ぜったい問題が難しいからだよ。」
「テストの悪しき弊害だな。
 解ける解けないと、問題の複雑さとは、別のことだ。
 その意味で、数学者の解けないと、世間一般の解けないは、少々食い違っているようだ。」
ふーん、よくわかんないなー。
「試しにやってみよう、6÷2は?」
「3」
「7÷2は?」
「3.5」
「整数だけだったら?」
「3、余り1」
「余りっていうのは無しで、1つだけの数字で答えたら?」
「そんなの無理だよ、答無し。」
「ほら、解けないだろう。」
「ずるーい。そんなの当たり前じゃない。」
「ずるいものか。
 整数の除算は、一般的には整数の範囲に解を持たない。
 立派な数学の命題だ。」
「当たり前のことを、難しく言ってるだけじゃん。」
「その通りだ。
 数学というものは、全て当たり前の事実を述べているに過ぎない。
 もっとも、難しく言うのには、それなりの理由があるのだけどね。」
「なんか、騙されてるみたいなんですけどー。」
「どちらかと言えば、いままでリンが騙されてきたんだな。
 数学は当たり前の組み合わせ。
 難しい、なんてのは迷信だ。
 少なくともこれで、解けるかどうかと、難しいかどうかは別物だということがわかっただろう。」

「でもね、難しさが関係なかったら、何が関係してるの。」
1つ、そもそも答が存在するかどうか。
 2つ、答が考えている数の範囲内にあるかどうか。
 3つ、答が有限回の操作で得られるかどうか。

「答が無いなんて、問題が悪いんじゃない。」
「本当の数学はテストではない。
 テストは必ず答があるように作られているが、  本当の数学では、まず求める答が在るのか、問うに値するかどうかを見極めるところから始まる。
 例えば、実数の範囲で、1に満たない最大の数は、いくつだろう?」
「うーんと、0.999999...、かな?」
「残念、この問いの答は存在しない。」
「えー、そんなのおかしいよ。順序があるんだから、はじっこは絶対あると思うんだ。」
「もし最大の数Mがあったとすれば、(M+1)/2 という数も1に満たない実数だろう。
 なので、答は存在しない。」
「むぅー。」
「どうしても不服なら、実数ではない、別の数の体系を作ってみるんだな。
 実数というところを見落としがちだが、
 解けるかどうかには“考えている数の範囲”がとても重要だ。
 7÷2は、数の範囲を整数とすれば、答なし。
 2−7は、マイナスの数を考えなければ、答なし。」
「なんか、すごくお役所っぽい。
 発想が後ろ向きだよ。
 できない、できない、なんて言ってないで、どんどん新しい数を作ればいいじゃない。
 引き算できなかったらマイナスの数、割り算できなかったら分数。」
「マスターが前向きになってくれて嬉しいぞ。
 “考えている数の範囲”を拡大すれば、解ける方程式も増えてゆく。
 逆に、数の範囲を限定すれば、解けないということがはっきりする。
  自然数 : 1+1
    ↓
  ゼロ  : 1−1
    ↓
  負の数 : 1−2
    ↓
  小数  : 7÷2
    ↓
  分数  : 7÷3
 x^2 = 2 の答が無かったから、√2 という無理数を作った。
 x^2 = -1 の答が無かったから、√(-1) = i という虚数を作った。」
「ちょっと待った。
 いくらなんでも、√(-1) は調子に乗りすぎじゃない。
 だって、√(-1) なんて数、実際に無いよ。」
「いままでの流れからすれば、実際にあるか無いかは問題にならないと思うが。」
「でも、√2って長さの線は引けるし、気温マイナス10度ってことだってあるよ。
 だけど長さ √(-1) はどこにも無いじゃない。」
「マイナスという数も、物理的にはどこにも存在しない。
 気温マイナス10度は、正確には絶対温度 273.15 - 10 = 263.15 K のことだ。
 海抜マイナス10メートルも、地球の中心から測れば 約6370Km - 10m だろう。」
「あたしの今月の赤字は?」
「金銭は物理的実在ではなく、人の作った概念だ。
 マイナスの数を認めて、虚数を認めないのは理にかなっていない。」
「理屈に合わなくっても、感覚的にそうなるんだよー。」
「本当の意味で想像力を奪っているのは、その日常に固執する感覚なのだろうな。
 実はマイナスの数でさえ、過去の数学者はなかなか認めなかったのだ。
 1つ、大切なことを教えておこう。
 数学のルールはただ1つ、理にかなっているか否か、それだけだ。
 物理的に実在しなくても、頭の中に存在することができれば、それは在りってことだ。」

「じゃ、何でもありなんだ。」
「数学は自由だ。」
「ふーん、自由ねえ・・・じゃあさ、どんな数作っても、自由なんだね。」
「理にかなってさえいれば、な。」
「それじゃあ、2乗して√(-1)になる数っていうの、どうかな。
 x^2 = i の答。
 これに、“リンの虚虚数”って名前つけとこうよ。」
「ぷっ、ハハハハッ・・・」
「な、なによー。いま自由だって、言ったじゃない。」
「いや、認識を改めよう。
 マスターはとても豊かな数学的素養をお持ちのようだ。」
「なーんか、引っかかるわねー、その言い方。」
「素直に褒めているんだぞ。
 私もいろんな人間を見てきたが、即座に“虚虚数”を作ったのはリンが初めてだ。」
そう言われると、悪い気はしないけどねー。
「それでは、2乗して“虚虚数”になる数は、“リンの虚虚虚数”
 2乗して“虚虚虚数”になる数は、“リンの虚虚虚虚数”・・・」
「そ、そういうことになるわね。」
「それではマスター、この式の値は、いくつになるのかな。
 ( 1/√2 + 1/√2i ) ^ 2 」
「え、えーと、1/2 + 2・1/2・i - 1/2 =・・・あれ、あれれー。」
「そう、( 1/√2 + 1/√2i ) ^ 2 = i になる。
 ついでに言えば、( - 1/√2 - 1/√2i ) ^ 2 も、もう1つの答だ。
 なので、わざわざ新しい数を作らなくても、
 実数と虚数を合わせた複素数の範囲で十分にカバーできる。」
「うっ、、、そうなのかー、ガッカリだなぁ。
 ・・・Gって、やっぱ、あたしのことバカにしてる?」
「とんでもない、マスターの感性に敬意を払っていたところだ。
 こと数学の話になると、バカとか利口とかいって卑屈になる人間が多過ぎる。
 マスターには、そうあって欲しくは無いな。」
そういえば、そうだよね。
バカとか利口とか気にするのって、テスト勉強のやりすぎだよね。
もっと楽な感じで、いいのかな。
「解けるかどうかと、頭の善し悪しは関係ない。
 もっと素直に発想を楽しめばいいんだ。」
うんうん、なんだかそんな気がしてきたよ。

「さて、世の中には複素数より先の数を考えている人もいるが、
 まずは複素数の範囲で一段落付けることが多い。」
「複素数の範囲で、全部解けちゃうから?」
「なかなかいい勘してるな。
 より正確には、“代数方程式は、複素数の範囲内に必ず解を持つ”。
 これを代数学の基本定理と言う。」
「あっ、わかった!」
「何が?」
「だったら、複素数まで知っていれば、どんな方程式だって解けるってことじゃない。
 解けない方程式なんか無いってことだね。」
「ところが、そうでもないんだ。」
「えー、さっき言ってたのと違うよー。」
「答があっても、答に至るまでの道程が、果てしなく遠いことがある。」
「そーかなー。答が在るってわかってるのなら、
 あとはすごーくがんばって、しらみつぶしに探せばいいんじゃない。」
「候補が有限個だったら、それもいいだろう。
 しかし、複素数は無限にある。」
「じゃ、だんだん答に近づいてくってのは。
 とりあえず上から3桁目までとか。」
「だんだん本質に近づいてきたな。
 その、答に近づいてく、接近の仕方が大事なところだ。」
「急接近とか、わくわく。」
「スピードも大事だが、もっと大事なのは、有限と無限の違いだ。
 有限回の接近で答にたどり着けるのか、それとも無限にかかるのか。
 明暗を分けるのは、そこだ。」
「無限にかかったら、どんなに接近してもゴールにたどり着けないもんね。
 あ、それが“答に至る道程が果てしなく遠い”ってことか。」
「解けるか解けないかの境界をつきつめると、有限と無限の狭間にたどりつく。
 もっとも、ぱっと見にはどこが無限なのか、ほとんど気付かないだろうが。」
無限! 解けないのが無限だなんて、考えたことも無かったよ。
「なーんか、雲をつかむような話だなぁ。
 感覚的にはわかる気もするんだけど、、、」
「そうだな、例えば x^2 = 2 の答は?」
「√2 でしょ。」
「もしルートという記号が無くて、分数までしか使えなかったら?」
「えーと、1.414・・・」
「その、・・・の先はどうなっている?」
「あ、無限に続いてるね。」
「そう。本来であれば x^2 = 2 の答を得るには、無限の操作が必要となる。
 ルートは、それをひとまず保留した記号だ。」
「??!」
「それでは、円周率πという記号はどうだろう。
 とことん追求するなら、これだって無限の計算を続けねばならないだろう。
 それをπという記号に含めたから、“答=2/3π”などといった解答が書けるわけだ。」
「ふーん。じゃあ、無限が出てくるたびにどんどん新しい記号に置き換えてけばいいんだね。」
「そうだな。
 ルートや円周率のように、答が在ることがわかっていて、操作の方法もわかっているところは、
 1つの記号に置き換えて前進できる。
 よく考えてごらん。
 分数、たとえば 1/3 などといった数は、無限に終わらない割り算を記号化したものだ。
 三角関数 Sin(x) は、x/1! - x^3/3! + x^5/5! - x^7/7! ・・・ の操作が完了しないから、
 新しい関数となったわけだ。」
「それだと、新しい記号とか関数って、どんどん増えてくの?」
「記号の追加自体が無限に続くかどうかは興味深いところだが、、、現実には、そう簡単には増えない。
 解けないと思っていたところが、実は既にある記号で表せるかもしれない。
 あと、どうせ作るなら、なるべく本質的な、適用範囲の広い記号を作るべきだろう。
 いまここで“リンの特殊関数”を作ってみるのはおもしろいが、今のマスターでは力不足だ。」
ギクッ! なんでわかったんだろう。
「既にマスターの思考パターンはお見通しだ。」
ぎくぎくぅー!
「“解けない影には無限がある。”
 これは数学の定理でも何でもない、感覚的なことだから、伝えにくい。
 それでもマスターなら、きっと感じ取れるはずだ。」
感じ取る、解けない無限を、感じ取る・・・
私が感じ取れたのは、気が遠くなるような思いだった。
「それゆえ、有限回の操作に限定して、新しい記号も増やさなければ、
 解くのが不可能な方程式が出てくることになる。」

今、わかった。
Gは、ひねくれていて、イヤミなようだけど、すっごく切れる。
まるで鋭利なナイフのように。
「G。」
「何か、我がマスター。」
「言っとくけど、あたしが呼んだんだからねっ。
 あたしが呼ばなかったら、Gは、ここに居なかったんだからっ!」
Gは腑に落ちないって顔をした。
あたしって、何でこうつらくあたっちゃうんだろう・・・
いやいや、こんなところで甘やかしたらだめだめ。
あたしが、Gのマスターなんだからねっ!

まとめ

・「数学は自由だ。」
  数学のルールはただ1つ、理にかなっているか否か、それだけ。
  物理的に実在しなくても、頭の中に存在することができれば、それは在りってこと。

・方程式が解ける条件とは、
  1つ、そもそも答が存在するかどうか。
  2つ、答が考えている数の範囲内にあるかどうか。
  3つ、答が有限回の操作で得られるかどうか。

・数の範囲を拡大すれば、解ける方程式が増える。
  自然数 : 1+1
    ↓
  ゼロ  : 1−1
    ↓
  負の数 : 1−2
    ↓
  小数  : 7÷2
    ↓
  分数  : 7÷3
    ↓
  代数的無理数(√などの冪根): x^2 = 2
    ↓
  虚数(複素数) : x^2 = -1

・代数学の基本定理
  代数方程式は、複素数の範囲内に必ず解を持つ。

・“解けない影には無限がある。”
  有限回の操作で、
  新しい記号を増やさなかったとき、
  解くのが不可能な方程式が出てくることになる。

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